太宰治:人間失格
葉蔵は、裕福な家庭に生まれるも家族や使用人などと調和して過ごすことができない。周囲との関わり方や自分の表現の仕方が分からない葉蔵にとって、お道化を身にまとい本当の自分を隠し、いや本当の自分がどんなのか自分で認識する事を恐れ、諦め、絶望しながら成長していく過程は痛々しい限りだ。葉蔵のお道化に隠された本当の姿を見透かし葉蔵を恐怖に陥れる竹一や堀木といった登場人物。あるいは葉蔵の美貌によって引き寄せられる女性たち。葉蔵はしかし、こういった人たちとのみ自分を出して付き合って行く事ができる。自分の存在の無意味さ醜さを背負い、病的にすさんだ生活に周囲を巻き込んでいく。運命の糸で結ばれた女性との結婚で心休まる生活を手に入れたように思われた葉蔵だが、果てはやはりすべての人に裏切られてしまうのである。自分が今まで周囲を裏切ってきたように。
- 作者: 太宰治
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/01
- メディア: 文庫
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まず読み始めて感じるのが、葉蔵少年の少年らしくない素直でない、しかし葉蔵らしいと言えばそうであるその性格。その気持ちの私の少年時代のそれと同じものがいくつかあったことです。
何が欲しいと聞かれると、とたんに、何も欲しくなくなるのでした。
とたんに物語に吸い込まれてしまいました。
葉蔵は、一晩共にし初めて心を開放したと自分で認める女性に対して、本当は離れたくないと思っているのに、なおお道化によってこんなセリフを放ちます。俺は金が無いから・・と
金の切れめが縁の切れめ、ってのはね、(・・略・・)男に金が無くなると、男は、ただおのずから意気消沈して、ダメになり、笑う声にも力が無く、そうして、妙にひがんだりなんかしてね(・・略・・)男のほうから女を振る(・・略・・)
金がすべてでは無い。貧乏でも夢があればやっていける。そう言ってくれる女性もいるしそう思う自分もいる。だけど男はみな葉蔵の(セリフの)ように感じる。少なくても青年期は間違いなく感じる時期があるのでは無いでしょうか。格好を付けたいだけかも知れない、けれど何が正しいのか意地っ張りなのか分からないけれど、この気持ちは誰しも持ったことがあると思うのです。
と、こうやって人間の弱さや羞恥をまとった葉蔵の姿に、ある種強引に自分を重ね合わせて様々想いに耽っている自分がいるのです。
最愛の妻が最悪の事件に犯されてしまう日、堀木とある遊戯をします。
罪のアントニム(対義語)はなんだ?
法律、神、善、蜜?罰?・・・しかし納得のいく答えは出ませんでした。その前に信頼と純潔は汚されてしまったのです。
罪のアントニムは何?罪を犯す。人に迷惑を掛ける事?人の信頼を裏切る事?自分の期待を裏切ること?
期待、、信頼、、、潔白、、、分かりません。ですが葉蔵は確かに色々な期待と信頼を裏切ってきました。しかしとうとうすべてに裏切られ、裏切る相手もいなくなり、自分にかまうものもいなくなり、自分に人間失格の烙印を押して後に移った隔離された田舎暮らし。葉蔵にとっては最後に残っていた平穏な世界だったのかも知れません。
生きる意味。そんなたいそうなテーマで捕らえなくても、誰もが考えさせられる、いや普段日常で考えているような事にリンクする。幸せとは?人と生きること。自分が生きること。どんどん分からなくなっていくかも知れませんが、ずっと考えていくべきテーマです。今読んでいる「バカの壁」何かヒントが掴めるかもしれません。考えるヒントが。
読む前のコメント
次はこれに決定!数ヶ月前に妻が買ってきた本。自分で失格の烙印を押すが、ある女性は彼のことを良い子と語るその真相はいかに。[太宰治、捨て身の問題作]楽しみ。(2007.2.9)